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男の子の成長譚3

2017年06月21日

さてさて、表題シリーズの3回目。
芸術作品から、人生や人間の成長を紐解いてみる…。

ワーグナー(1813-1883)作、黄金の指環奪還を巡る世界救済がテーマのオペラ『ジークフリート』。主人公の英雄ジークフリート、おそれを知らぬ若者はその後どのように成長していくのでしょうか。

彼は黄金の指環を守る大蛇を名剣で倒したとき、その蛇の血をサラッと舐めます。確か、触るだけでなく、舐めるのですよ。えっ?!気持ち悪いと思ったのをおぼえています。大蛇は実は巨人が姿を変えたものなので、人の血を舐めることになるのです。そして、その血が熱いことに驚き、大蛇退治の達成感だけでなく、言い表しがたい違和感のようなものを感じるのです。

血を舐めるというのは、一体どういったメタファー(暗喩)なのでしょうね。ジークフリートは強欲の象徴である蛇(人)殺しをして、悲しさのような、微妙な感情に襲われるのです。

また実際の両親を知らぬために、森の中で母や父を想うシーンがあります。印象としては特に母を強く想い、慕うのです。「お母さん、僕のお母さんは一体どこにいるのだろう…」と。こういう場面を観ていると、エディプスコンプレックス(母親を求めて、父親に抱く複雑な心理)の話として読み取るだけでなく、子どもの「出自を知る権利」というものも改めて考えたりします。

また子どもの成長過程によく見られる、「本当の優しいお母さん(お父さん)はきっとどこかにいるんだ」という強い幻想についても考えさせます。私も子どものころ半ば本気で想像していました。きっと本当の優しいお母さんは事情があって泣く泣く私を手放したんだと(笑)。ジークフリートの鍛冶屋のナヨナヨ狡猾継父は実父で、本当の両親は彼の妄想の産物だと物語を穿って眺めてみても面白いかもしれません。

剛腕で自信家のジークフリートは、複雑で繊細な感覚や感情を体験しながら、徐々に少年から青年へと成長していきます。

今回の舞台の指揮者が、英雄の成長は「暴力や血や殺人」という巨大な破壊力を伴うものなのだ、と説明していましたが、勿論これは半分譬えで半分は真実なのでしょう。英雄という部分は男子一般に置き換えてよく、思春期青春期の男子は(意識しようがしまいが)荒れ狂う精神のうねりの中で成長していくところはあると思います。(多少女子にもあると私は思いますけれど…。)

続く…。


 

 

 


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