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大海原へ

2017年07月16日

最近ものの1時間もあれば読めて面白かった本が、漫画家西原理恵子著『女の子が生きていくときに 覚えていてほしいこと』(2017 角川書店)でした。「覚える」というのは覚醒の覚えるですから、これは一種の啓蒙エッセイですね。

「王子様を待たないで。誰かから幸せにしてもらうのではなく、自分の幸せは自分の手でつかもう。人生という航路において絶対に安全というものはないのだから」という趣旨で、今のご時世至極当たり前のことをユーモアたっぷりに、自身の青春期や子育て、子離れの体験を通して著していました。何といっても地に足が着いている。100万円の上京資金と過酷な体験から人生を切り拓いてきた人だから説得力がある。たとえ安定した男性と結婚してもリストラや病気などはいつ起きるかわからない(男性の方だって、打ち出の小槌をもった王子様にされても困ると思います)。また結婚生活の箱を開けてみればDVやハラスメントだってある。それだけでなく、愛情関係が変化することも人間ならあり得るのです。

「失敗を恐れるな。男のことでも何でも人生に失敗はつきものだ。大事なのはそこから這い上がること。だからせめて食べていく力を自分でつけろ」みたいなことをストレートに語っている。綺麗事をいうお母さんより、こういうお母さんに育てられた方が知恵と力が身に付き、何より楽しいだろうと思うことしきりでした。

読者レビューなんかを読んでいると、これがまた何というか…。DVとかアルコールとか、ヤンキー家庭の人にはこの本は有効なのかもしれないけど…という意見があり、ああ…、そうかと…。まるでヤンキーや肉体労働や非正規の人と結婚しなければ関係ない、自分とは無縁だと思っている人がいることが驚きでした。

DV、アルコール等の問題や家庭内のゴタゴタなどは、何もヤンキー家庭や貧困家庭だけの問題ではないのです。そこは違う。高学歴高収入の男性でもDVなどざらにあるし、DVというとやはりどこか顔や体をボコスカ殴ったり罵詈雑言を浴びせることだと思っている人が依然として多いような気がします。

暴力はなくとも非常に冷たい夫婦関係に陥っている場合は沢山ありますし、世間的には仲の良い家庭を築いているように見えても不倫や浮気など相手の人格を無視した行動を平気でとる人もいます。フェアな関係であるはずの夫婦関係が、男のほうが偉いと思っているのか意思決定において妻を完全にコントロール下に置いている場合も多いのです。

そういう息苦しい状況に耐え忍ぶのではなく、「あなたの人格を否定したり無視したりするような人からは、離れる勇気ももとう。いい人、一途な人は損をするよ。だからまず自分でしっかり稼げるようになろうよ」と著者は言っているのですが、そうなると今度は「一途なことのどこがいけないのか」といった意見もみられました。はぁ、そうとってしまうのか…。別に一途でもいいのですけどね、「耐え忍ぶ、一途」がもし誰か(夫や子供)のためであると思っているのならば、それは利他ではなく利己のためでもあるのは断然明らかです。

筆者はこれからの若い女の子たちにエールを送っています。誰かを幸せにしたいならば、まずは自分が幸せになること。そして「ダイヤモンドをくれる人より、リヤカーを一緒に引っ張って行ってくれるような人を見つけよう!」と。私もそうだと思います。汗水を一緒に流してくれる人のほうが、人生が楽しく充実すると思います。人生は享楽に耽るものでもなく、耐え忍ぶものでもない。たった一度きりの尊い人生なのですから。

山、海、空

 


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