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集団

2012年10月07日

先日イギリスのオペラ『ピーター・グライムズ』(ベンジャミン・ブリテン作曲)というものを友人の薦めで観る機会を得ました。ブリテンもこの作品も全く知りませんでしたが、テーマが「排除、差別、疎外、群衆と個」という内容だったので観る前から大変興味をもっていました。
舞台は19世紀半ば、イギリスの小さな漁村。ピーター・グライムズというのはそこに暮らす漁師で、孤独で乱暴、不器用な性格ゆえに、村人たちから疎外されています。彼は崖っぷちの粗末な小屋で暮らし、今は貧しくも漁で成功しいつか村に店をもちたいと夢見てもいる。
一方、閉鎖的な寒村の住民たちは、規範・規律というものを求めながら、人の噂話をしたり陰口をたたくことに喜びを見いだしているところがあります。
そんななか一つの事件が起こります(オペラはこの事件の審判のところから始まるのですが)。ピーター・グライムズのたった一人の徒弟の少年が、漁の最中に嵐に遭い亡くなってしまいます。この死にピーター・グライムズが関わっているのではないかと村人たちは疑い、彼は審判にかけられます。結果は無罪。
しかし、「新しい徒弟を雇いたい」とピーター・グライムズがまた望むと、村はまた噂話でもちきりになります。実は児童虐待をしているのではないか、孤児院から徒弟をもらうのはキリスト教に背いた行為ではないかetc…
村人の中には彼の理解者も2人(長老と未亡人の教師)いて、また少年を迎え入れることを後押しします。ところが、乱暴なグライムズはこの少年を荒くこき使い、少年はあるとき崖から足を滑らせて亡くなってしまいます。事故死なのですが、少年がいなくなったことで村人たちはヒステリックな集団と化す。そして少年の死を知った長老(理解者の一人)は、グライムズに船を沖に出して船ごと沈めるよう促します。半狂乱になったグライムズは海の藻屑と消えていく。村は再び日常をとり戻します…。
オペラというと華麗か壮大なものが多いと思うのですが、これはかなり違いました。灰色と黒のシーンが圧倒的に多く、途中で息が詰まりそうでした。誰が悪人で誰が否かという単純な話ではなく、異色なものを排除しようと動く集団というものの怖さとエネルギーを見せつけられた作品でした。オペラの中では、実はピーター・グライムズだけでなく、未亡人の教師、酒場の女たち、孤児なども、たやすく排除の対象になる位置に置かれています。集団というのは、何かを疎外する対象を作るという、危険な要素を常に孕んでいるものなのかもしれません。
パンフレット『ピーター・グライムズ』

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