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相克

2013年03月31日

先日初めて観たヴェルディ作のオペラ『アイーダ』。ジェラシー(嫉妬)と愛の相克の壮大な物語でした。
舞台は古代エジプト。主な登場人物は、エジプトの王女アムネリスと軍隊指揮官のラダメスとエチオピアの王女アイーダ。アイーダは奴隷として王女アムネリスに仕える身であり、身上を伏せて生活しています。
物語の核は三角関係で、王女はラダメスのことが好きなのに、ラダメスとアイーダは密かに愛し合っている。王女は、ラダメスと自分より身分の低いアイーダが相思相愛なのに薄々感づき、次第に嫉妬の炎を激しく燃え上がらせていきます。〈嫉妬の思いが私の身を苦しめる〉と切々と歌うシーンは大変胸を打つものがあります。
やがてエジプトはエチオピアを完全制圧し、武勲を立てたラダメス諸共、凱旋の歓喜にあふれかえります。その陰には、祖国の陥落を悲しみながら、ラダメスに対する愛情に苦しむアイーダがいます。ラダメスを愛することは祖国を見限ることなのですから。
ラダメスは戦勝をおさめたことから祖国エジプトへの愛国心を募らせていき、いつか奴隷身分のアイーダと一緒になりたいと願っていますが、やがてアイーダの素性を知ることで運命が大きく変わっていきます。
王女アムネリスは、自分を妻に選ばなかったラダメスに対する怒りと嫉妬と、嫉妬に駆られたアムネリスの行動が発端で祖国エジプトを裏切ったかどでラダメスが処刑を免れざるをえなくなったことに、深い苦悩と絶望、悲嘆の感情にとらわれていきます。
物語は展開だけを見れば悲劇的な結末を迎えます。
地下牢に生き埋めになったラダメスと、先にそこに潜んでいたアイーダは、死の床で永遠に結ばれるのです。
三者とも、ある感情と、それに衝突する感情の狭間で、激しく揺れ動き、苦悩しますが、最後は、王女アムネリスの祈り(愛)によってこの悲劇が昇華されるように見て取れたのは、美しく清らかな最終幕の演出のせいでしょうか。
ラダメスとアイーダが地下牢でも一緒だとアムネリスが知ったならば、アムネリスの心情はいかに?更に嫉妬の業火に苦しむのか、或いは己の罪深さに苦しむのか、それは一体どうなのでしょう?…と思いましたが、作者がそうはしなかったところに「人間という存在への信頼と愛」を感じたのでした。
さくら

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