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『ハンナ・アーレント』

2013年12月01日

たまには映画館で真面目なものをということで、神保町の岩波ホールで『ハンナ・アーレント』という映画を観てきました。この作品、岩波で久々の大ヒット作品のようで、昼の部のみならず夜の部もとても混んでいました。岩波は通常中高年の鑑賞者で圧倒的に占められるのですが、大学生くらいの若い人たちも多かった!
ハンナ・アーレントとはドイツ出身の政治哲学者・思想家。ユダヤ人女性で、ナチス政権下のドイツからフランスの収容施設を経てアメリカへ亡命し、様々な大学で教鞭を執った人です。
1960年、ナチス親衛隊の中佐であったアイヒマンが逃亡先の南米で捕らえられたことを知ったアーレント。アイヒマン裁判の傍聴を希望し、その模様やアイヒマンという人物についての考察をアメリカの雑誌に掲載します。その内容のために、ユダヤ社会から猛反発をくらい四面楚歌の状態になっていく。精神的、社会的に追い込まれながらも、ものごとを理解しようと懸命に努め、気丈に主張していく女性でした。
アーレントは、600万人のユダヤ人を絶滅収容所に輸送したこの人物(アイヒマン)を、ユダヤ社会が望むような「極悪非道な人非人・悪人」としてみたのではなく、「むしろ上層部の意向に非常に忠実な、命令に従っただけの、思考を放棄した人物」として捉えました。彼は妻の誕生日には花を贈るような(この行為、ヨーロッパでは普通らしい)、ごく普通の人だったのです。
「あなたはユダヤ人を愛していないのか?」と親友に問い詰められ、「私は友を愛する」と答えたアーレント。
人物記としても非常に面白かったし、またアイヒマンの裁判模様は記録映像を使っているので、史実物としても大変興味深いものがありました。アイヒマンの「(組織や社会の仕組みは)どうせ変わらない…」という発言。何を言っても何をしてもどうせ変わらない…、という無気力な感じや閉塞感。これがアーレント言うところの「思考の放棄」なのかもしれない、であるならば自分を含め誰にでもあるものだ、と恐ろしさを感じました。
(彼女の著作は難解すぎて眠剤の役目を果たしてしまうので、こうして映画を観て学ぶのもありだと思いますが、よく知っている人に聞くと「映画は映画」。彼女の思想を必ずしも正しく伝えているわけではないようですが…。)
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この裁判の翌1961年に、以前少しブログに取り上げたことがある、ミルグラム,S.のアイヒマン実験という社会心理学史上有名な心理実験が行われました。ご興味のある方はミルグラム教授の書いた著作『服従の心理』をお読みになればと思いますが、この実験を一言で表すと(妥当性の問題を残しつつ)、「人は簡単に権威者の命令に従って残忍なことができる(暴力的な役割を遂行できる)」というものでした。
東京ステーション.JPG
↑ 昨年末の東京駅

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