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父と母と息子

2014年11月30日

久〜しぶりにヴェルディ作曲のオペラ、『ドン・カルロ』を観てきました。原作はフリードリッヒ・フォン・シラーの『ドン・カルロス』。シラーって誰?という方は、12月に流れる『第九』の合唱曲の歌詞の人、といえばすぐにピンとくるでしょう。


この『ドン・カルロ』、話の筋は本当にメロドラマです。どういうことかというと、主人公と相思相愛だった女性が、今は事情があって主人公の父の妻であり、つまりは母(義母)と息子の関係になり、お互いに思慕の念を抱きながら苦しむ、という設定なのです。これだけでも十分魅力的なのですが…。

舞台は16世紀のスペインで、ドン・カルロはスペインの王子。父は国王。母はフランスの元王女。父と息子、カトリックとプロテスタント、統治(弾圧)と独立、といった重要な対立軸のほかに、成年男子の友情、女の嫉妬や贖罪などの要素が鍵となっており、とても重厚なスケールの大きい作品に仕上がっています。

ドン・カルロは義母への愛に苦しむのですが、一方、国王も息子と妻の仲を疑い、また妻のつれなさから孤独に苦しみます。政略結婚とはいえ若い妻を娶ったことで、自らの老いにも直面させられます。若いドン・カルロは最初はナヨナヨした青年なのですが、そのうち国政にも目覚め、父への反抗心を露わにし、血気盛んに後先考えず父に対し剣を抜きます。
この作品、一体何がテーマなのか?ここまで観て気付いたのですが、フロイトのいう「エディプス・コンプレックス」そのものなのですよね。「(男の子は)母の愛をめぐって父と争う」という無意識的葛藤ですが、正にそのものずばりなのでした。勿論、実母ではなく元恋人である義母にアレンジはされています。
ドン・カルロの最後が素晴らしい。父に去勢されることもなく、ギリシャ神話のように母を娶ることもなく、葛藤は昇華され、自立への道を歩みます。父からも母からも離れていくのです。
ではこの主人公の自立を促したものは何だったのか。母への執着を切ったものは何だったのか。それは父の力もありますが、真の友情関係と、それから母の押し出す力だったと思います。元恋人は、最後は「母親」として「息子」を外に出すのです。二人の愛の成就よりも、一人の青年の成長を後押しします。その部分のアリアを聴いていると、「断腸の思い」とはこのことではないかとさえ心を強く揺さぶられます。
エディプス・コンプレックスなど自分に関係ないと思っている男性陣は沢山いると思いますが、そうでもないなと思うのが日々の印象です。
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