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『 The Babadook 』

2015年06月27日

最近、これはヒット!という映画に恵まれています。娯楽作品なのですが、優れた心理劇に出会うことが多いのです。そのうち1作はネットでは酷評だったものの、結構秀作だったのでまたの機会にご紹介。今日はネットでも評価が高い『ババドック The Babadook 』(2014、豪)という、ホラー映画のお話です。

ホラーといっても血なまぐさい場面は一つも無く、母と子の物語です。母と子と(父)が要の人物なので、つまり根源的な人間関係を扱った作品なのですね。

母はシングルマザーで看護師か介護士をしながら、7歳の男の子を育てています。この男の子が、これまたものすごーく手のかかる子。やんちゃの度を超えて落ち着きがなく、言動が乱暴で、暗闇やお化けを異常に恐がり、日々武装や攻撃作戦を考えていて、とうとう放校に近い処分を受けます。

入ってはいけないと言われている自宅の地下室に入ったり、子どもに相応しくない武器を作って身につけていたり、ヒステリー発作を起こしたり。「ママ!ママ!」とママを求めて可愛い子なのだけれど、こんな子がいたらさぞや疲れるだろーなと。

お母さんはこの子に振り回されて、頼るべき人もおらず、本当に疲れ切ってやつれている人。慰めは、子どもを寝かせてから何となくつけてみる深夜のドラマぐらいです。子どもを愛して理解しようと努力しているのだけれど、子どもをハグしなかったり、同じベッドに寝かせても距離を取ったり、そんな演出がチラホラ垣間見られます。

人生に疲れ切った母と、母にまとわりつく問題児の子ども。

このシチュエーションに、ある晩、家の中で「ババドック」という不気味な絵本を見つけたことから、2人の周りで奇妙なことが起こり始めます。ババドック? 婆犬ではなく黒っぽい人の魔物ですね。造語なのでしょうか、dook を調べても意味は無し。ぬらりひょん、のような語の感触なのでしょうかねぇ…。

この映画は一見すると、「魔物に取り憑かれた母が問題児の子をいたぶっていく」というストーリーなのですが、実はそうではないのだと思います。

お母さんは息子の出産時に、病院へ駆けつけてくる途中の夫を事故で失なっています。夫を愛する気持ち、罪悪感、突然逝ってしまった夫への怒りや悲しみ、忘れ形見の子を愛する気持ち、それから、この子さえいなければ、というアンビヴァレントな強い想いを抱いており、それが夫の遺品の残る地下室(彼女の無意識の世界そのものですね)や一人息子への距離感となって表れているのではないでしょうか。

7歳の男の子は、自分を愛してはくれているけれど強い葛藤を抱える母がいつどうなるかわからないという恐怖や不安と闘い、母の内なる魔物が出ないように母を守っているのだと、映画を観ていくうちに読み取ることができます。女性監督ゆえか、愛しているものを虐待してしまう母側の心理なども上手く描けていました。勿論、初夏の夜の単純なホラーとしても楽しめます。

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