2024年07月03日
最近読んだ小説の話。
3月31日付のブログで亡き人に会いに行くデジタルクローンの話を書きましたが、正にその話が小説『本心』(平野啓一郎著、2021)のモチーフとなっていて驚きました。
2040年代、母一人子一人で育った青年(20代後半)が最愛の母を事故で失い、思慕の念から数百万円で母のデジタルクローンを作成してもらい、ゴーグルを掛け VR の世界で日々二人の時間を持とうとします。
健康な母が何故か生前「自由死(安楽死)」を強く望んでいたこと、それを巡る青年と母の葛藤、父が誰なのか青年はよくわかっていないこと、高校を中退した青年の境遇と職業、そういったことが絡み合うなか、母の本心を知ろうとする青年の人生が動き始めていきます。デジタルの世界とリアルの世界が相互に影響を与え合いながら話は進んでいきます。
デジタルクローンに対し私は当初懐疑的な立場でしたが(今でもそうかもしれませんが…)、それでも自分の置かれた状況が異なれば VR の世界に感情の交流を求めることも十分あり得るかもしれないと思いました。
話の詳細は省きますが、それまで孤独だった青年が母から離れて自分の世界を広げていく過程に心が揺さぶられ涙が溢れてきました。私たちは所詮、親や家族の人生の全てを知ることはできず、「他者」として向き合わねばいけないところもあるのですよね。
秋には映画も公開されるようなので、是非楽しみにしていたいと思います。