2016年09月28日
読書の秋…
最近読んで面白かったのが、児美川考一郎著『キャリア教育のウソ』(2013,筑摩書房)という本です。著者は法政大学で教育学を教えている先生のようですね。
2000年以降に始まった中学や高校でのキャリア教育とは一体どのようなもので、それは本当に生徒や学生たちの役に立っているのかどうか、といったことを一般読者向けにとても分かりやすく書いています。中学生や高校生などのティーンエイジャーやその親御さんたちに是非参考にしてほしい文献です。参考にしてほしいと緩やかに書きましたが、この不安定な時代を生きていくには欠かせない論考だと思います。
臨床をしていると日々沢山の「自分が何をしたらいいのか、何をしたいのか、何が好きなのかわからない」という訴えをよくききます。これは職業的な問題を筆頭に人生全般に渡ることもしばしばです。こういう場合「少しでもやりたいことを見つけて失敗してもいいからtryしていきましょう」という助言はあまり役に立たず、「まずは目の前のことを丁寧に積み重ねて生きていきましょう」と言う方が有益なことが多いのですが、これが職業探しの話に限定されると、本当に「やりたいこと探し」の限界が自ずとやってきます。
著者は、キャリアを狭義に「仕事や職業」と定義することに疑義を呈しています。それは終身雇用や年功序列型賃金といった日本型雇用が崩壊しつつある社会において、夢だけ持たせるような、また「正社員」だけを目指すようなキャリア教育には構造的な限界があるからです。どういうことかと言えば、個人の努力の有無に関わらず、構造的に非正規社員やアルバイター、フリーターを必要とする社会が現代の社会なので、そのことを踏まえたキャリア教育が必要だと説いているのです。ですのでキャリアとは、専門職や職業という意味ではなく、「これまでの、そしてこれからの人生の履歴」であり、「節目や転機など変転の可能性を少なからず含むもの」として捉える必要があるのだといいます。
そして若者には、産業構造や職業構成の変化、労働の実態などの職業や仕事の理解を深める学習が大切で、その上で自分の「やりたいこと」「やれること」「やるべきこと」の3点から自己のキャリアを考えていくことが大事ではないかと伝えています。
10代、20代前半の若者向けに書かれたものなので、それがそのまま、それ以外の年齢層の現在迷っている大勢の人たちに向いている内容とは言えません。そのことを弁えずに読むと「結局は自己責任の問題になってしまうのか…」等という早とちりをしてしまいかねませんので、そこは注意が必要です。