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権力欲とは何か

2017年04月16日

4月も半ばに入りましたね。朝晩も冷え込むことが薄れ、今朝は窓を開けて鳥の囀りを聞きながら朝食をとりました。処処啼鳥を聞く…、ささやかながら春を感じて幸せな気分になります。

さて、今日は以前取り上げた書籍『いじめのある世界に生きる君たちへ』(中井久夫著)のなかに出てきた「権力欲」ということについて、少し考えてみたいと思います。

人には睡眠欲、食欲、情欲のほかに、「他人を支配したい」という権力欲があり、この権力欲は他の欲と比較にならないほど多くの人々を巻き込むと述べられています。権力欲というより支配欲といったほうが私としては分かりやすいのですが、このあたりの事情は先生の他の文献を読む必要がありそうです。

また、暴力によってかろうじて維持される権力は、(権力として存続することが)危ういものであり、一度暴力で震え上がらせて、それ以降はいつでも暴力をふるえるぞということを示し、後は「自発的に隷従させる」ようにするのが権力側の人々の理想なのだと説いています。何とも巧妙というか怖い構造ですが、こういったことは古今東西の学者たちが時々に指摘している大変重要なことです。

中井先生はいじめ問題を軸に言及していますが、これは家、職場、地域、国といった組織においても同じことだと思います。

例えば家。家庭や家族というものは安らぎを与え楽しくて心地よいものだと思いたいものですが(それも事実ですが)、いやいや家のなかというものは実は怖いところでもあるのです。心理カウンセリングを受ける人というのはこの辺りの感覚が結構鋭敏で、家族間の葛藤を抱えて訪れる場合も多いですよね。

権力欲の究極的な発露である暴力や虐待というものが顕著に見られない家庭でも、例えば、なぜか父親(母親)が一番偉そうに振る舞っている。お金を稼いでくる人が一番偉いとされている。母親(父親)は弱々しいか愚痴っぽいかヒステリックに喚くことが多いので、家族はいつもその人を気遣って生活している。親の子どもに対する干渉が激しくそれを愛情とはき違えている、などといった支配の形は沢山見られます。

また父母に代わって祖父母や子どもが支配的な家もありますし、家族固有の価値観が強固に支配している家もあります。複雑で巧妙な力関係が相互に働いているので、もしかしたら家族の誰かが知らず知らず自分を押し殺しているかもしれないし、自発的に無意識に服従していることも多いと思います。家族の関係性が対等でfairでお互いが尊重し合っているというのが理想なわけですが、力の不均衡が生じやすいのが家族であり、その不均衡は家族のなかの一番弱いところへ影響を及ぼすのです。一本の樹に力がかかって、一番細い枝から折れるようなものです。

昨今騒がれている、親を敬うべし、兄弟仲良くすべし、夫婦睦まじくすべし…などというのは至極当然のことであって、そうではないことの方が多く、それを教条的に教えたところでどうこうなるものではありません。それに道徳的なことまで上から押しつけらて、ああ良いこと言っているなあと素直に取り込むのではなく、自分の頭で考えて模索しながら行動することの方が大切ではないでしょうか。おいそれと簡単に答えを出すものではありませんし、自分の頭を鍛えて多角的に考える、真摯に他者の意見に耳を傾ける、こういった力を身に付けることこそが、権力欲の構造から人を救う術になっていくのではないか…と考えています。

さくら


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