2019年05月19日
『ヘンゼルとグレーテル』(2013、米)というひどい娯楽映画を観ました(笑)。単純に面白かったけれどアクションでありスプラッターでした。大人になったヘンゼルとグレーテルがウィッチハンターとなって、「目には目を」で魔女をガンガン殺しまくっていくというお話でした。ユニークだったのが、ヘンゼルがお菓子の家の食べ過ぎで糖尿病患者になっており、時々インシュリン注射を打たねばならなくなっていたことでしょうか。
ヘンゼルとグレーテルはグリム童話集のなかの一つのお話で多くの方が小さいときに接したことと思いますが、一説には実母殺しのお話で有名ですよね。
早速どんな物語だったのか確認したくなり、完訳グリム童話集1(金田鬼一訳、岩波文庫)のなかの17『ヘンゼルとグレーテル』(KHM15)を読んでみました。森の外れに木こりのお父さんと継母、ヘンゼルとグレーテル兄妹の4人家族が住んでいて、兄妹が森の中に捨てられ、3日間歩いて御菓子の家にたどり着いたら魔女の家で、食べられそうになったところをグレーテルの機転で魔女を焼き殺し、めでたく家に戻ると継母は亡くなっており優しい父と再会するという、記憶に違わない主旨でした。
まず思ったのが、これは家族による児童虐待の話ではないかということです。村では飢饉もあり貧困に喘ぐ家庭の口減らしの話だとは思うのですが、継母にしても魔女にしても(本当は同一人物で実母)子どもたちに随分手荒く酷い扱いですし、優しい父という存在にしても気が弱くて継母に逆らえず結果的には子捨ての加担者となっているのですから、家族間力動の話ではないかと興味深くなりました。
ヘンゼルもグレーテルも年齢は定かではありませんが、ヘンゼルは煙突から出ている白い煙を白猫や鳩に見立てて両親の目を胡麻化し、その隙に家に帰られるように道に細工をしたり、グレーテルは魔女の企みを読んで釜土のなかに上手く誘導するなど、こんな賢い子たちはいるのだろうかと思うほどです。美味しそうな御菓子の家も、実は空腹と虐待を紛らわすために作り上げた幻想なのかもしれません。
抑圧された子どもたちの復讐劇なのか、どのような寓意があるのかはよくわかりませんが、ドイツの暗くて深い森を想像しながら読むとなかなか恐ろしい話ですよね。
ところでハチャメチャな映画のなかでは、継母は実母として、しかも実は白い魔女(良い魔女)として描かれており、よってグレーテルも白い魔女の血を半分引く特殊な存在という設定になっていました。一方白魔女から生まれても男性のヘンゼルはただの人間のようでした。