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『万引き家族』

2019年07月11日

遅くなりましたが先日やっと、是枝裕和監督の『万引き家族』を観ました。
鮮やかな起承転結を望む人には後味の悪い映画のようですが、その後それぞれの人生はどうなっていくのだろう…と余韻のある作品でした。

是枝監督は、今日的な家族に因む事件や事案(子どもに万引きをさせて生活の足しにして暮らしていた家族や、高齢の親が自宅で亡くなった後も遺体を放置し亡き親の年金で暮らしていた中高年の子、戸籍がなかったり所在不明の子どもたち etc.)を題材にして、血の繋がりはないけれど家族の物語を描いたとインタビューで語っていました。

父親は意欲的には働かないし、万引きどころか車上荒らしもするし、のらくらしていてだらしがない。でも、基本的に心優しい性格です。また万引きを子どもに教えるときは真剣そのもので、父親が子どもにモノを教える時はこういう感じであろうなと切実に訴えてきます。犯罪に巻き込んでいる悪い父親なのだろうけれど、ままならない社会で生き抜いていく術を身をもって教えているという意味では愛情深い人なのだと思います。長男に自分の本当の名前を付けて自分の育て直しをしているとか、父親の心理分析をしてみても何とも無粋の様な気がしてきます。

祖母や母親、母の妹といった人たちも何というか気だるい、だらしがない雰囲気が漂っている。それでも基本的に優しい人たちで、家族には笑いと思いやりがあって温かい団欒の時間があります。

そういった大人たちではあるけれど、就学期の子どもをどうにかして学校へ行かせるほどの気は回らない(長男は盗んできた子なのでしょうか…?私にはそうも思えないのですが…)。経済的に大変だからというだけでなく、遵法精神や規範意識が薄いというよりも、そもそも初めから制度の枠外で肩寄せ合って生きている印象なのです。

父や母も躾や教育、社会的な保護とはほぼ無縁な環境で育ってきたことが窺い知れます。母の妹はだいぶ違うところに位置しますが、それは作品を観て考えてみてください。犯罪は反社会的ですが、この人たちが反社会的かといえば決してそう断ずることもできないように思います。母親を演じた女優は、「結局のところ、自分がこの役を好きなのか嫌いなのかわからない」と言っていましたが、是枝監督はこういう人物を劇中で表現するのが上手な人ですよね。

最終的に家族の形態は崩壊し両親は捕まります。そのときの女性取調官の発言は薄っぺらい世間そのものに思えてきます。自分がついこういう見方に囚われていないか、背中がヒンヤリします。まだご覧になっていない方、興味のある方は是非鑑賞してみてくださいね。

 

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