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猫目線

2019年09月26日

今秋には興味を掻き立てられる映画が幾つか始まりそうでワクワクしていますが、先日家で観た『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』(2016 イギリス)は、久しぶりに動物ものでいい作品でした。動物ものって単純に楽しめますが結構外すでしょ?

原題は『a street cat named Bob』。ストリートミュージシャンでホームレス、薬物依存の青年と街猫(野良猫)のボブが主人公で、一人と一匹がやがて無二の親友になっていく実話に基づいた物語です。実話の猫のボブが映画出演もしているそうで、こんなに公共の場に慣れている猫はいるのだろうかと目を疑いますが、人の肩に乗って移動する猫は知っているのでボブのような類稀な性格の子もいるのだと思いました。

一種のサクセスストーリーなのかもしれませんが、ロンドン社会のひずみに生きる若者たちのもがき苦しみや成長が描かれていると思いました。更生施設を経て薬物問題から立ち直ろうにも、職が無い、家がない、薬仲間も多い劣悪な環境に身を置かざるを得ない状況では、負の循環でまた薬物に手を出してしまいます。青年は一人のソーシャルワーカーの奔走で何とか共同住宅の一室を得て、紆余曲折を経て薬物を断つことを決意し成功します。

イギリス社会の薬物問題の治療の仕組みや方法を知ることもできます。薬物代替療法(メサドン療法)のために、患者は毎日最寄りの薬局に行って麻薬に代わるメサドン液剤を経口投与されます。ただ、いつかはこのメサドンを断つ必要があり、壮絶な禁断症状と闘わなくてはいけなくなります。

映画では薬物の過剰摂取から街中で命を落としていく仲間もいて、現実は甘くはないことを突き付けられます。人間たちの悲喜こもごもを見つめるボブの淡々とした涼しげな眼差しや表情、丸ごとの存在感が、陰湿になりがちな映画に希望を添えてくれています。

 


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