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『この世界の片隅に』

2017年03月09日

観たかった『この世界の片隅に』を観てきました。『君の名は』を抑えて某アニメ作品賞を受賞したのは納得がいきました。

昨日は国際女性デー。ああ、この作品も、一つには女性がテーマなんだな…としみじみ思いました。

舞台は戦時中の広島市や日本最大の軍港呉市で、呉に嫁いできた主人公すずを中心に、健気に生きる市井の人々の生活が描かれています。日本一の軍港の街が激しい空襲に何度も見舞われ、戦火が人々から大切なものを奪っていく様子がよく伝わってきます。戦争はもっと悲惨で惨いものなのにほのぼのきれいに描き過ぎている、呉は世界的な視点からすれば最大の加害軍事拠点だったにも関わらずその視点が抜けている、などの意見があるのもわかります。

宮崎駿監督の『風立ちぬ』がアッパークラスの人々の戦時下の生き様を描いているのに対し、こちらは市井の普通の人々です。普通というのは、戦争とか国家というものに対しては無知で(すなわち自らの加害者性には無頓着というか知る由もなくて)、生きていくことにかけては精一杯工夫をして逞しく生きる「すず」のような人ということです。でも決して脳天気という意味ではなくて、特にすずは好きな絵を描くことによって自己表現し、また時折とても醒めた目を自分に向けながら暮らしているのです。

「銃後の女たち」を美化した作品は嫌いなのですが、この作品はそうではなくて、残酷な戦争に巻き込まれながらも何とか人間性を失わずに生きようとする人々の姿を描いたものでした。

ジェンダーという点から観ると、男性も勿論のこと、当時の女性たちの生活は本当に大変だったと思います。すずは嫁いできた日から一家の主婦として働くのですが、ガスも水道もない生活で、朝早く水を汲みに行き、乏しい食糧事情のなかで日に三回家族の食事を作り、お風呂を沸かし、洗濯などをする。自分のことは後回し。すずはそれを楽しみながらできる性分ではありますが、やはり苦労も絶えない。軍人相手に働かざるを得ない遊女もいて、何だかな…と同じ女性として本当にしんみりしてしまいます。

私が小学生だった頃の地域に、奇行の激しい、梅干しのような歳をとったおばあさんがいました。奇行を敢えて書きませんが、子どもたちが面白がって渾名をつけたり似顔絵を書いたりして冷やかし本当に気の毒でした。戦争で夫と子どもを亡くしてああなったと聞いていましたが、当時若く見積もって70代としても、戦争当時は20-30代。今考えるときっと色々なことがあったということは想像に難くありません。

『この世界の片隅に』は過去の話ではありません。また日本が受けた被害の話に矮小化してもいけません。今でもシリアをはじめ世界中の片隅で起きていることなのですし、過去は現在へ引き継がれ、そして未来へ続いていくものなのですから。


 


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