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感想『母という呪縛 娘という牢獄』

2023年03月30日

話題の書籍『母という呪縛 娘という牢獄』(2022 齋藤彩, 講談社)を読んでみました。記者の女性が2018年の母殺しの被告となった若い女性(娘)とやり取りを重ねながら、判決が確定するまでを取材したルポルタージュでした。医学部9浪殺人事件といえば、まだ記憶に新しいのではないでしょうか。

読んでみてまず思ったのが、精神的虐待(頻度は少ないものの身体的虐待あり)の何ものでもないということでした。ただ10代の頭がよく体格も良いお嬢さんであったために、度々のSOSが軽視され大きな悲劇に繋がったように思います。

子の望みや意向を妨害して親の希望を押し付けるのは紛れもない虐待ですが、母と娘のLINEのやり取り(母からの一方的なLINEともいえる)は壮絶で本当に驚愕します。スマホやLINEはつまり“密室”の延長なのですよね。外出しても支配と被支配の関係が続く、雁字搦めの時代なのだなと思いました。

なぜこのお母さんが娘も夫も自分の下僕のように扱うここまで支配的な人間になってしまったのか、母親の育った背景はわずかに書かれているだけでよく分かりませんでした。ルポとしては、ただ単にグロテスクな母と娘の関係を描いたものではなくて、崩壊した一つの家族の再生あるいは父と娘の関係の再生の萌芽が描かれており読後涙腺が緩みました。

事件を起こすような関係性は極端で稀なケースだとしても、私たちのなかには誰にでも「支配欲」のようなものがあるはずです。他者が自分の思うように動いてくれなかったりコントロールが上手くいかないと、非難したり甘言を弄したり様々な策を講じて何とかして他者を動かそうと躍起になります。また支配される側から見て、自分にとって力のある人が敷いたレールを進む方が断然楽なので追従を受け入れることも多いにあると思います。ルポの娘がそうだったとは私は決して思いませんが、判決文では厳しいことも書かれていました。そういうことを色々と考えさせられました。

 

 


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