近年「私はBPDではないか」と言ってこられるクライエントさんが実に多いのですが、今や境界性パーソナリティ障害やその他のパーソナリティ障害は広く一般に知られているのでしょうか。また最近は境界性人格障害の専門家というものをよく見聞きしますが、アカデミックな機関で人格障害に特化した専門教育というものはありませんので、専門家と研究者の違いをよく見極めることが大切でしょう。
また安易にパーソナリティ障害の診断を付けてはならないとする考えや、人格障害という表記を避けてパーソナリティ障害としている臨床家もおり、私も慎重さを要する問題だと考えています。また診断基準を全てみたすわけではないけれど、何らかのパーソナリティ傾向が見られる場合は、例えばBPD(Borderline Personality disorder)ではなくBPT(Borderline Personality Tendency、境界性パーソナリティ傾向)と表します。因みにBPDの「見捨てられ不安」などは程度の差こそあれほとんどの人にあるものです。
対人関係、自己像、感情の不安定、著しい衝動性の広範な様式で、成人期早期までに始まり、以下のうち5つ以上によって示されます。
①現実にまたは想像の中で見捨てられることを避けようとする、なりふりかまわない努力
②理想化とこき下ろしとの両極端を揺れ動く、不安定で激しい対人関係
③著名で持続的な、不安定な自己像、自己感
④自己を傷つける可能性のある衝動性、少なくとも2つの領域にわたるもの
(浪費、性行為、物質乱用、無謀な運転、むちゃ食い)
⑤自殺の行動、そぶり、脅し、または自傷行為の繰り返し
⑥顕著な気分反応性による感情不安定性(通常は2-3時間持続し、2-3日以上持続することはまれな、強い不快気分、いらだたしさ、不安)
⑦慢性的な空虚感
⑧不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難
⑨一過性の妄想様観念、または重篤な解離性症状
境界性パーソナリティ障害の原因には生物学的原因と心理社会的原因が考えられますが、小児期の生活歴には、「身体的または性的な虐待、無視、敵対的な葛藤、幼少期の親の疾患や死亡、離別」がよくみられると報告されています。また最新の研究では、慢性的トラウマによる外傷後ストレス障害(PTSD)の人の行動、情動、認知の特徴と似ていることが判明してきました。つまり生育歴において何らかの外傷体験をもち、その外傷が現在の生き方に影響を及ぼしているのです。また境界性パーソナリティ障害をもつ人は、気分障害、物質関連障害、摂食障害(特に大食症)、注意欠陥/多動性障害、他のパーソナリティ障害をしばしば合併します。治療方法は家族療法、弁証法的行動療法、支持的精神療法、精神分析的精神療法、認知療法、薬物療法などの併用が有効とされています。
境界性パーソナリティ障害は、治療に時間を要しますが必ず緩和していくものです。その症状は30-40代になると少しずつ落ち着いてくると言われています。神保町カウンセリングルームでは、境界性パーソナリティ障害やその他のパーソナリティ障害に有効な心理療法を提供しております。お一人で抱え込まずに、まずはカウンセラー(セラピスト)にご相談ください。ご家族や身近な方からのご相談も受け付けております。ご家族のどなたかがご自身の生き方や関わり方を見直していくことが、この問題の解決に至る早道になる場合もあります。