1. 心理 東京
  2. ブログ 心's LOOM

ブログ 心's LOOM

父と娘の関係2

2016年10月22日

~続き~「契約、知 vs.愛」がテーマの『ニーベルングの指環:ワルキューレ』より

前にも述べたように、ワルキューレ(複ワルキューレン)とは9人の女戦士のことで、長女の名がブリュンヒルデ。槍と盾を身に付け、雄叫びを上げて登場する勇ましい戦乙女なのですが、まあ現代ならナウシカやもののけ姫あたりでしょうか…。

主神ヴォータンと知恵の女神の子どもであるブリュンヒルデは、9人姉妹のなかで最も聡明で勇敢なワルキューレであり、それゆえ父の寵愛と期待を一身に受け、また父の命令に忠実なのです。

では女戦士とは一体どんな役目を負わされているのでしょうか。彼女たちは父の命令によって、将来の戦に備えて人間界の戦死者の中から優れた兵士を集め父の居城ヴァルハルに連れて行くのが仕事です。

ヴォータンは元々、黄金の指環(これを手に入れた者は世界を統治する権力を得る)を地底族から騙し取った経緯があり、その地底族からの反撃を怖れて兵士を集めています。契約の神であるヴォータン(契約の神なのに!)はじめ様々な種族の者たちが、権力に取り憑かれて殺戮や強奪をしたり策謀したりしているのです。

ヴォータンが愛娘ブリュンヒルデに、ある人物(ジークムント、実はヴォータンと人間との間の息子)をヴァルハルに兵士として連れて来いと命じます。ところがジークムントは愛する人も一緒に行けないのならば自分は行かないと申し出を拒みます。神の下で働けるという名誉を捨てて、ジークムントは愛を選んだのです。それでも押すブリュンヒルデにジークムントは「あなたは強くて優秀だが、心は冷酷な人だ」と言い放ちます。こういったジークムントの行為はブリュンヒルデを強く揺さぶります。

彼女は今まで父に従い男性原理で生きてきた人なのですが、ここで世界観の変容が起きます。権力よりも愛を第一義に貫く男性を前にして、父親の命令に背くことを選びます。そして父の情け容赦ない怒りを買い、残る姉妹8人に助けを求めても得られずに(姉妹は父を怖れて姉を助けられないのですね)、父の厳罰を受けることになります。

物語には色々な登場人物のもっと複雑な心理があるのですが、まあ大体の筋は以上のようなものです。

主神ヴォータンを「父」や「契約や知を重んじる男性原理主導の社会」とするならば、こういった優勢な支配に盲目的に従う姉妹8人というのは、現代の私たちとは無縁の他人事ではありません。ブリュンヒルデの生き方は、自分で物事を見て考え、自由な意思で行動・選択するという大切な一つの示唆を与えていると思いますが、さて、私たち女性はそれができているのでしょうか…。

オペラのムックでは「ブリュンヒルデは未来の女性像だ」と書かれていましたが、この後の作品「ジークフリート」「神々の黄昏」で更に大きく登場することになります。

トルコ桔梗

 


父と娘の関係1

2016年10月16日

先日、年に2度のご褒美ということで、ワーグナー作オペラ『ワルキューレ』を観てきました。休憩時間を含めると約5時間の上演なのですが、休憩中はホールで売られているカツサンドを食べたり色々飲んだり、お腹も機嫌を損ねず楽しむことが出来ました。そういえばワーグナー好きの皇太子も観劇していましたが、ああいう方は長い休憩時間どこでなにをしているのだろう…と思いました。ざわざわした人混みの中の一人でいられるということは、なんてステキなことなんでしょうね。

さて『ワルキューレ』。トム・クルーズの映画(これもなかなか面白かったように記憶していますが)ではありませんよ。序章が『ラインの黄金』、2作目が『ワルキューレ』、3作目が『ジークフリート』、4作目が『神々の黄昏』、この4作を合わせて『ニーベルングの指環』といって、全部合わせると15時間の上演になり昔は4日連続で開催されたようなのですが、さすが現在はバラバラに上演されるのがほとんどのようです。

前にもブログで書きましたが、北欧神話、ドイツの伝説、ギリシャ神話などを題材にして作られたもので、神々、半神、人間、巨人、小人(地底人)、妖精などが出てくる壮大なスケールの作品なのです。神話、伝説、昔話といったものは、東西の違いはあるものの、人間真理の普遍的な面が捉えられているので、心理の面からも非常に重要になってくるのですね。

で、この『ワルキューレ』。半神半人の兄妹の愛と、神の王である父と戦士である愛娘の関係、という2つの軸が交差して響き合いながら物語が進展していきます。因みにワルキューレ(複:ワルキューレン)というのは、父(主神ヴォーダン)を守る9人の娘である女戦士たちのことであり、そのなかの長子である勇敢聡明なブリュンヒルデと父の関係に目が離せないのです。下世話な話になりますが、大手家具屋さんの父と娘の関係もこのようなものであったのだろうか…、などと勝手な妄想をしてみたり…。

長くなってしまったので、続きは次回ということにしたいと思います。

色々なカラー

 


秋晴れ

2016年10月15日

本日土曜日、やっと爽やかな秋晴れの日となりました。
瞑想でもゆっくりしたいような、心地よい季節です。

秋明菊

秋明菊


補い合う

2016年10月12日

日経を読んでいたら「色弱」についての記事がありました(2016.10.2付)。

色弱者だけでなく全ての人に優しい色使いをする「カラーユニバーサルデザイン」の普及に努めている人の記事で、色弱者の特性を理解することがノーマライゼーション(社会の平等化)への一歩となり、理解とちょっとした工夫が職業選択の幅を広げるという主旨でした。

これを読んで、偉大な精神療法家であるミルトン・エリクソン(精神科医、心理学者)がかなりの色弱であり、紫色ははっきり識別できたために紫色のシャツや持ち物を愛用していたということをふと思い出しました。このエピソードを初めて知ったとき、正直、仕事に支障はないのだろうか…と思ってしまったのですが、そういうのは無知のなせるところなのでしょうね。

人は何らかのハンデを背負っても、社会の理解があって生活上の工夫をしたり、ハンデを補うような他の能力を発達させたりして、生活に順応できるようになるのですね。エリクソンくらいの人にまでなると常人には及ばない桁外れの観察力が身についてクライアントの変化を読み取っていたとのことですが、勿論ここまでいかずとも「可能性を探っていく、選択肢を広げていく」というのは大変面白いことだと思いました。

現在アメリカでは、ヒラリー対トランプの公開討論中(2回目が終わったところ)ですが、ヒラリーは「diversity:多様性、種々雑多」という言葉を使っていて、この点も両者の決定的な相違なのでしょうね。二人の討論をPBS放送で聞いていると、なかなか勉強になります。ヒラリーの英語は聞き取りやすく(勿論私には判らないところもありますが)、英語なんてわからずとも、如何に討論するか?というノンヴァーバルな態度を観察学習することが出来ます。話が逸れましたが…。http://www.pbs.org/video/2365860709/

実りの秋

実りの秋


天高く…

2016年10月07日

ブログも滞りがち…

更新する時間がないので、せめて写真でも。
可愛い秋の訪問者

a red dragonfly

a red dragonfly


金色の香り

2016年10月02日

今週はこの香りが、街中のあちらこちらから風に乗ってやってきました。

金木犀

金木犀


careerとは何か

2016年09月28日

読書の秋…

最近読んで面白かったのが、児美川考一郎著『キャリア教育のウソ』(2013,筑摩書房)という本です。著者は法政大学で教育学を教えている先生のようですね。

2000年以降に始まった中学や高校でのキャリア教育とは一体どのようなもので、それは本当に生徒や学生たちの役に立っているのかどうか、といったことを一般読者向けにとても分かりやすく書いています。中学生や高校生などのティーンエイジャーやその親御さんたちに是非参考にしてほしい文献です。参考にしてほしいと緩やかに書きましたが、この不安定な時代を生きていくには欠かせない論考だと思います。

臨床をしていると日々沢山の「自分が何をしたらいいのか、何をしたいのか、何が好きなのかわからない」という訴えをよくききます。これは職業的な問題を筆頭に人生全般に渡ることもしばしばです。こういう場合「少しでもやりたいことを見つけて失敗してもいいからtryしていきましょう」という助言はあまり役に立たず、「まずは目の前のことを丁寧に積み重ねて生きていきましょう」と言う方が有益なことが多いのですが、これが職業探しの話に限定されると、本当に「やりたいこと探し」の限界が自ずとやってきます。

著者は、キャリアを狭義に「仕事や職業」と定義することに疑義を呈しています。それは終身雇用や年功序列型賃金といった日本型雇用が崩壊しつつある社会において、夢だけ持たせるような、また「正社員」だけを目指すようなキャリア教育には構造的な限界があるからです。どういうことかと言えば、個人の努力の有無に関わらず、構造的に非正規社員やアルバイター、フリーターを必要とする社会が現代の社会なので、そのことを踏まえたキャリア教育が必要だと説いているのです。ですのでキャリアとは、専門職や職業という意味ではなく、「これまでの、そしてこれからの人生の履歴」であり、「節目や転機など変転の可能性を少なからず含むもの」として捉える必要があるのだといいます。

そして若者には、産業構造や職業構成の変化、労働の実態などの職業や仕事の理解を深める学習が大切で、その上で自分の「やりたいこと」「やれること」「やるべきこと」の3点から自己のキャリアを考えていくことが大事ではないかと伝えています。

10代、20代前半の若者向けに書かれたものなので、それがそのまま、それ以外の年齢層の現在迷っている大勢の人たちに向いている内容とは言えません。そのことを弁えずに読むと「結局は自己責任の問題になってしまうのか…」等という早とちりをしてしまいかねませんので、そこは注意が必要です。

秋色のトルコ桔梗

秋色のトルコ桔梗

 


このページの先頭へ