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ブログ 心's LOOM

カジノ法成立

2016年12月15日

今年も残すところ2週間あまりとなりました。
先日は同業仲間の忘年会に参加して、ドラッグなど嗜癖問題の話で盛り上がりました。

思うところ多々ありながら、今朝「カジノ法成立」のニュースが配信されてきました。世界に後れを取っているから必要なのか。モナコのように高級カジノリゾートが整備されれば、雇用も増え経済効果があるのか。「成熟した大人の遊び」で、タキシードにドレスのオシャレを気取ったセレブが集って大金をばらまいていくのを期待しているのか。一般市民もそのおこぼれにあずかってパチンコなどの大衆向けギャンブルがより一層大手を振るうのか。

ドラッグ、アルコール、ギャンブル、セックス、ショッピングなどの嗜癖行動の問題は、病識や危機意識が乏しい人が非常に多いと感じています。

そういえば大変気になることを、トラウマ研究第一人者で精神科医のヴァン・デア・コーク氏が著作のなかで言及していました。
“トラウマ患者はベンゾジアゼピン系の精神安定剤を好む傾向がある。そうした薬の作用は多くの面でアルコールに似ており、人の気持ちを落ち着かせ、心配しないで済むようにしてくれる(カジノのオーナーは、ベンゾジアゼピンを摂取している客が好きだ。負けても動揺しないで、ギャンブルを続けるからだ)。”

ベンゾジアゼピン系の薬についてFDA(アメリカ食品医薬品局)は副作用の点から長期服用を承認していないのですが、日本社会では相当緩い印象を受けます。精神科や心療内科に通っていなくても「ちょっと不安感があるから」「眠れないから」ということで処方してもらい長期服用している人も見受けられます。

日本の政府は多様な嗜癖問題についてもっと学んでほしいと強く思います。或いは穿った見方をすれば、嗜癖行動はそれだけお金が沢山回るので、そこを期待しているのか。カジノリゾートの建設が文化的に発達した社会であるとはとても言い難く、むしろその逆行のようであると思わざるを得ません。また、統計的にもどう考えても格差が拡大している今の社会で、私たち市民に本当に必要なのは一体どういうことなのでしょうか…。

そういえば『カジノ』というマーティン・スコセッシ監督の非常に面白い映画がありましたが、もしかしたら日本でもあのような映画の2作目、3作目が作られていく効果は生じるのかもしれませんね。

曇天と落葉松

曇天と落葉松


2016年の本の中から

2016年12月07日

本格的に寒くなってきましたね。お隣の文具店でも恒例の年末セールが始まり、結構賑やかな音が聞こえてきます。それに今日7日は二十四節気の「大雪(たいせつ)」。風邪など引かないように温かくして過ごしたいものです。

さて最近読んだ今年刊行の本について。

ヴィクトール・E・フランクル著赤坂桃子訳『ロゴセラピーのエッセンス 18の基本概念』(2016)新教出版社

フランクルといえば、ナチスの強制収容所体験を記した『夜と霧』の著者として特に有名なので、学生の時に触れたことのある方も多いでしょう。彼はフロイトとアドラーに師事し、独自の「実存分析/ロゴセラピー(ロゴとは‘意味’)」を築き上げ、人間存在の意味や自分の人生の意味の探求に焦点を当てたセラピーを創始しました。この小論はその『夜と霧』の英語版に付録としてあったもので、英語→ドイツ語→日本語の流れで今回初訳となった貴重なものです。

これだけでロゴセラピーを理解できると思ってはいけませんが、心に響いてくる言葉が沢山載っています。そのなかに次のような有名な言葉があります。

ー私の人生の意味はなんですか?と問うのは方向が間違っている。問われているのは他でもない自分であることを理解しなくてはならない。すべての人間が人生から、(あなたの人生の意味を)問われているのである。ー

フランクルは強制収容所体験をする前に既にロゴセラピーについて考えているのです。凄惨な体験が「人生の意味を問うセラピー」を生み出したのではないところも、彼の傑出した非凡さを物語っているといえます。

*****

ここからは余談になりますが…

最近、若い人たちのなかにはISは知っていても(ISの歴史ではなく、ISの残虐性は、と言った方が正しいでしょうね)、ナチスも強制収容所も知らない人が出てきていて結構驚いています。

今年2016年は、映画界の巨匠アンジェイ・ワイダ監督も90歳で亡くなりました。数年前に彼の晩年の作品である大作『カティンの森』を岩波ホールで観ましたが、第二次世界大戦の負の歴史を扱った、非常に重く苦しい映画でした。その2016年も間もなく終わろうとしています…。

Orchid

Orchid

 


The Snowmanー夢ー

2016年12月02日

12月に入りましたね。街中が気忙しく感じられてきて疲れますが、心のゆとりを失わないでいられたらと思っています。

そういう訳で昨日は神保町の絵本屋さんBook Houseへ行ってきました。たまに足を運ぶとあれもこれも欲しくなってしまいますが、2冊だけ買って帰りました。

1冊は子どもの頃から親しんでいたレイモンド・ブリッグズ。『さむがりやのサンタ(Father Christmas)』(1973)や『スノーマン(The Snowman)』(1978)で有名ですが、30年ぶりのシリーズ新作!という金ピカの帯に眩惑されて思わず買ってしまいました。

その名は『スノーマンとスノードッグ』(2013)。早速読んでみたところ、うん?あら?何かが違う。違和感。絵も違うしストーリーも違う。ブリッグズの絵は緻密なところがあって、例えばある家の壁に掛けられた絵が、登場する度に全部等しく描かれていて、その整合性を追って見たりできるところなどが魅力でもありました。これは彼が漫画家を目指していたことによるのかもしれません。幻想的でフワっとしたタッチの『スノーマン』に至ってもそういった醍醐味はあったのですが、どうも違う。それにストーリーも、彼の作品には温かさだけでなく哀愁とか儚さみたいなものがあるのに、今回は男の子の一夜の夢の、可愛らしいお話なのです。

よく見てみたらキャラクター原案がブリッグズで、作者は別のお二方でした。アニメから絵本にしたのでしょうか…。

まあ不本意ではあったものの、夢(眠ったときにみる夢)について理解するのにとても分かりやすいお話でしたので、待合のところに置いておきますね。

フロイト的夢解釈によれば、夢の材料は夢を見る夜の日中や前日あたりの出来事からいろいろ拾ってきて、それらを巧妙に加工して夢を作り上げ、およその夢はその人の願望充足なのです。また夢を見ている最中に実際に自分の体に生じていることも夢の内容に影響してきます。そういった観点からもこの絵本は参考になります。

夢を報告してこられる方が多いのですが、簡単に恐怖の夢=悪い夢、不吉な夢とはいえないので、日中どう過ごしたかなども忘れないようにメモをとっておくと夢の解釈を深めることが出来ると思います。

『スノーマンとスノードッグ』(2013,竹書房)より

『スノーマンとスノードッグ』(2013,竹書房)より

 

 


脳、心、体

2016年11月27日

もうすぐ12月になりますね。
白山通りの銀杏並木伐採の話ですが、どうやら根っこの問題ではなく、東京オリンピック絡みで道路が拡幅されるためらしいとの噂を耳にしました。季節の移ろいと時間の流れと共に、街の景色は変わっていくのですね。それにしても、東京オリンピックの後のことを真剣に考えている人たちは一体どれくらいいるのでしょうか…。

さて、最近好んで学んでいるセラピーでは、「体」というものをとても重視しています。たとえば「それ(感情や感覚、違和感や体の痛みなど)を体のどこで感じますか?」という質問が多かったり、体の違和感から感情や心的外傷を探っていったり。「心の問題なのに、なぜ体なの?」と思われる人が多いかと思います。

感情はまず体に表れて、後から言葉(理性脳、左脳)で‘怖い’や‘悲しい’などと意味付けするからなのですが、自分の体の状態や感覚などに気づくことの重要性を説明している記述を見つけたのでここに引用したいと思います。

「心的外傷後の反応を変えたいなら情動脳(大脳辺縁系、扁桃体といった右脳)にアクセスして、「辺縁系セラピー」をしなければならない。…情動脳に意識的にアクセスできる唯一の方法は、自己認識を通してであることを示した。つまり、自分の内部で何が起こっているかに気づいて、自分が感じているものを感じることを可能にする脳領域である内側前頭前皮質を活性化するのだ。」(ベッセル・ヴァン・デア・コーク『身体はトラウマを記録する-脳・心・体のつながりと回復のための手法』(2016,紀伊國屋書店)第13章より)

下線は後から付けました。ちょっと同語反復的で難しい記述かもしれませんが、最近の神経科学の発達によって脳と心と体の繋がりが解明されてきているのですね。したがって自分の身体的感覚を自覚していくことが、情動脳の過活動を抑え、自己の主体性を育てていくことに繋がっていくのです。

lakeside


銀杏並木

2016年11月23日

明朝は雪の情報が出ていますね。都心でも2cmの積雪があるとか、一刻も早く雨で溶けてくれることを祈るばかりです。雪景色は綺麗で好きなのですけれど…

今日は水道橋方面から歩いてオフィスへ来ました。着いて鞄を覗くと、ひらりと1枚。銀杏の葉が中に入っていました。風に運ばれてきたんですね。この白山通りの銀杏の樹ですが、確か12月から伐採が始まります。大きくなりすぎて根が道路を変形させているからのようです。今年で見納めかと思うと寂しくなりますね。

銀杏一葉

銀杏一葉

神田カトリック教会

神田カトリック教会

 

 

 


人は社会的な動物である

2016年11月13日

今読んでいる文献から派生したお話…。

ベッセル・ヴァン・デア・コーク著『身体はトラウマを記録する-脳・心・体のつながりと回復のための手法』(2016,紀伊國屋書店)というもので、ヴァン・デア・コーク先生はトラウマ研究の第一人者なのですが、この著書の表紙絵(昨日のブログphoto)どこかで見たことがあるなと思っていました。

それもそのはず、アンリ・マティスのJazzシリーズの一枚『イカロス』でした。イカロスはギリシャ神話に出てくる登場人物で、蝋で固めた翼を付けて空を飛翔しますが、太陽の熱で蝋が溶け、海に墜落して命を落としてしまう男の子の話でしたね(但し諸説あり)。今ではテクノロジーや人間の傲慢さを戒める神話として有名です。

コーク先生の著書の原題は『THE BODY KEEPS THE SCORE』Brain,Mind,and Body in the Healing of Trauma(2014)

今日、トラウマ(心的外傷)は精神に影響を及ぼすだけでなく、脳や体にも重篤な影響を与えることがわかっています。そして何をトラウマとするかは単回の大事件や大事故だけでなく、「発達性トラウマ」という幼少期からの生育の段階で受けるトラウマや「親子関係の性質」に目を向けて、脳や心や体にアプローチする色々な治療法を研究・実践していく必要性をこの本のなかで繰り返し説いていました。

ところで、この本の制作者はなぜ『イカロス』を使ったのか?人は社会的な動物であるのに、そのことを軽視して精密医療化している最新の精神医療に対する警鐘なのか。それともイカロスの羽はbodyの一部であり、bodyの損傷ということは彼がトラウマを負っていたことを暗に示したかったのか…。何となくなのか…(笑)。

ブルフィンチの『ギリシア・ローマ神話』を読むと、子どものイカロスの話というより、その父ダイダロスの話になっています。ダイダロスは並外れて優秀な細工師で、幽閉されていた迷宮から逃げ出すために息子と自分の分の羽を作り本人は助かりました。ダイダロスは優秀だけれど嫉妬心から甥を殺めてしまうほどの激しい心性の人物として書かれているので、父ダイダロスと無邪気な息子イカロスの関係ももしかしたら複雑なものだったのかもしれません。

燃え

燃え

 

 


今日の締め…

2016年11月12日

マインドフルネスと読書と甘いものと…

お茶の時間

お茶の時間


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